はじめに
MIDI機器を複数台つなぐとき、最もシンプルな方法は機器をMIDIケーブルで数珠繋ぎにする「デイジーチェーン」です。機材AのMIDI OUTから機材BのMIDI INへ、機材BのMIDI THRUから機材CのMIDI INへ…とケーブルを順番につないでいくだけで、スプリッター等の追加機材が不要です。
ただし、実際にやってみると「繋がっているのに信号が届かない」「同期が微妙にずれる」といった問題に出くわします。この記事では、筆者が4台のDAWレスセットアップで実際にはまったポイントをもとに、デイジーチェーンの落とし穴とその対策をまとめます。
筆者のセットアップの詳細は「筆者のDAWレスセットアップ全公開」をご覧ください。
THRUとOUTの違いを理解する
デイジーチェーンで最初に理解すべきは、MIDI THRUとMIDI OUTは役割が違うということです。
- MIDI THRU: MIDI INに受けた信号をそのまま転送する。自分自身の信号は含まない。ハードウェア的にINのコピーを作る回路なので、処理遅延がほぼない
- MIDI OUT: その機材自身が生成した信号を送る。デフォルトではINから受けた信号は含まない
ただし、OUTの挙動は設定で変わる場合があります。多くの機材には「Soft THRU」や「MIDI Merge」と呼ばれる設定があり、これをONにするとINで受けた信号をOUTからも転送できるようになります。つまり、THRU端子がなくてもOUTを使って数珠繋ぎが可能です。
Soft THRUはElektron、Roland、Korgなど多くのメーカーの機材に搭載されていますが、注意点があります。ハードウェアTHRUと違い機材内部のソフトウェアで処理されるため、わずかに遅延が大きくなる可能性があります。また、クロックやスタート/ストップの転送がSoft THRUで正しく動かない事例も報告されています。
筆者のセットアップの場合
筆者のセットアップでは、SyntaktがマスターでMIDI OUTは1つしかありません。理想的にはスプリッターで3台に並列分配したいところですが、A4を中継地点にしたデイジーチェーンで対応しています。
Syntakt MIDI OUT ──→ A4 MIDI IN
│
├─ A4 MIDI THRU ──→ TD-3
│ → Syntaktの信号がそのまま届く
│
└─ A4 MIDI OUT ──→ SP-404mk2
→ A4自身の信号(クロック転送)
A4のTHRUとOUTを使い分けているのがポイントです。THRUからはSyntaktの信号(ベースラインのノート)がTD-3にそのまま届き、OUTからはA4自身が転送するクロックがSP-404mk2に届きます。
落とし穴 1: THRUとOUTを逆につないだ
一番多いミスです。ケーブルを差し替えるだけなので簡単に起きます。
症状: マスター(Syntakt)からのノートが末端の機材に届かない
確認方法: 中継機材の背面を見て、THRUから出ているべきケーブルがOUTから出ていないかを確認する
筆者のセットアップでは、TD-3をA4のOUTにつないでしまうと、届くのはA4自身の信号であり、Syntaktからのベースラインは届きません。
落とし穴 2: THRUがない機材がある
すべての機材にMIDI THRU端子があるわけではありません。特にコンパクトな機材や新しい機材では、コストやスペースの都合でTHRUが省略されていることがあります。
THRUがない機材をチェーンの途中に入れると、そこでデイジーチェーンが途切れます。
対策:
- THRUがない機材はチェーンの末端に配置する
- またはMIDIスプリッターを使って並列分配に切り替える
- 「Soft THRU」設定がある機材なら、OUTからINの信号を転送できる。ただしクロックやトランスポートが正しく転送されるかは機材ごとに確認が必要
落とし穴 3: 台数が増えるとタイミングがズレる
MIDI THRUは受けた信号を「そのまま」転送しますが、回路を通過するたびに微小なタイミングのズレが加算されます(技術的には「ジッター」と呼びます)。デイジーチェーンで機器をつなぐほど、末端の機器でのズレが大きくなります。
特にアナログ回路を経由する古い機材や、安価なクローン機ではズレが大きくなりやすいです。
実用上の影響:
- 2〜3台のチェーン: ほぼ問題なし。体感できるズレはまず生じない
- 4台以上: ズレが聞こえる場合がある。特にドラムのタイトな同期が求められるジャンルで顕著
- 対策: MIDIスプリッター(MIDI THRU Box)を使うと、1台の出力を複数の機器に並列で分配でき、ズレの蓄積を避けられる
筆者の4台構成では、THRUを経由するのはA4→TD-3の1段だけなので問題は感じていません。ただし今後機材が増えた場合はスプリッターの導入を検討する予定です。
台数が増えたらスプリッターを検討する
デイジーチェーンは台数が増えるほどズレのリスクが上がります。どちらを選ぶかの目安をまとめます。
| 項目 | デイジーチェーン | MIDIスプリッター |
|---|---|---|
| 追加機材 | 不要 | 必要(別購入) |
| ジッター | 機器数に比例して蓄積 | 全機器が並列で等しい |
| 配線の考えやすさ | THRU/OUTの使い分けや接続順序を考える必要がある | シンプル(マスター→スプリッター→各機材) |
| THRUなし機器への対応 | 末端に置くしかない | どの位置でもOK |
| おすすめ台数 | 2〜3台 | 4台以上 |
3台までならデイジーチェーン、4台以上になったらスプリッターの導入を検討というのが実用的な判断基準です。
トラブル時の確認手順
デイジーチェーンで「信号が届かない」となったときの切り分け手順です。
- マスター→最初の1台だけ繋ぐ: これで信号が届けば、マスターの設定はOK
- チェーンを1台ずつ追加: 追加したときに信号が届かなくなる機材を特定
- THRU/OUTの接続先を確認: THRUから出ているか、OUTから出ているか
- クロックの到達を確認: MIDI接続チェッカーでBPM表示を見る
まとめ
MIDIデイジーチェーンのポイントを整理します。
- THRUとOUTは別の信号: THRUはINのハードウェアコピー、OUTはその機材自身の信号。ただしSoft THRU設定でOUTからもIN信号を転送できる機材が多い
- ズレは台数で蓄積する: 3台までは実用上問題なし、それ以上はスプリッターを検討
- MIDI OUTが1つしかない場合の工夫: THRUやSoft THRUを活用したデイジーチェーンで台数分の接続をカバーできる
- トラブルは1台ずつ追加して切り分け: 問題の機材を特定するのが解決の近道